競馬が畜産を支えている?
100円の馬券を買うと、そのうち10円は国に納められます。競馬を開いているJRA(日本中央競馬会)は、馬券の売り上げの10%を国に納める決まりだからです。利益が出た年は、その半分も納めます。2025年に納めた額は、合わせて3,838億円。1日あたりにすると10億円あまりです。
このお金は国の財布に入ったあと、畜産と福祉に使われます。JRAのことを定めた法律に、国は納めてもらった分と同じ額を、畜産の振興などと社会福祉に充てなければならない、と書いてあるのです。福祉に回すのはおよそ4分の1。100円の馬券なら、10円のうち7円50銭ほどが畜産の振興などに使われる計算です。
そもそもJRAは、競馬を通して「馬の改良増殖その他畜産の振興」に役立つために作られた団体です。法律の第1条に、そう書いてあります。競馬と牛や豚は、はじめからつながっていました。
70年で15兆円あまり
JRAが国に納めはじめたのは1954年。最初の年は4億円でした。
| 系列 | 1954 | 1970 | 1990 | 2010 | 2025 |
|---|---|---|---|---|---|
| 国庫納付金 | 4億円 | 543億円 | 4,053億円 | 2,448億円 | 3,838億円 |
いちばん多かったのは1996年の4,750億円。そこから減って2011年の2,294億円が底になり、いまはまた3,800億円台まで戻っています。70年あまりで納めた額を全部足すと、15兆7,548億円になります。
畜産全体から見ると
2024年の数字でくらべてみます。この年にJRAが国に納めたのは3,666億円。その4分の3にあたる約2,750億円が、畜産の振興などに回る計算です。
同じ2024年に日本の畜産が生み出した額(農業産出額のうち畜産の分)は、3兆6,654億円でした。肉用の牛が7,861億円、牛乳をとる牛が1兆35億円、豚が7,567億円、鶏(卵と肉)が1兆170億円です。
畜産の産出額を100円とすると、競馬から回ってくる計算の額は7円50銭ほど。馬券100円のうち畜産に回る額と、たまたま同じ数字になります。肉用の牛の産出額とくらべれば、その3分の1ほどです。畜産の売り上げの7%あまりにあたるお金が、毎年、競馬から畜産の振興に向けられていることになります。
JRAが直接出しているお金
国に納めるのとは別に、JRAは自分の利益の中から、畜産の研究や取り組みにお金を出しています。1991年に始まった仕組みで、毎年、大学や団体から応募を受けて選んでいます。2026年度は108件の応募から62件が選ばれ、出すお金の上限を足すと約63億円です。
中身を見ると、肉売り場に近い話がいくつもあります。いちばん大きい約7億7,000万円は、牛の個体識別にかかわる事業。牛肉のパックに書いてある10桁の個体識別番号の、あの仕組みです。次に大きい約7億円は、豚熱の経口ワクチン(口から与えるワクチン)を入れて保管する体制づくり。ほかにも、和牛4品種の遺伝子のデータベース、暑くなる気候に合わせた地鶏の育て方、豚肉のおいしさにかかわる成分を数字で表す研究などが選ばれています。
2026年からの4年間は上乗せ
2026年には、JRAにもう少し多く納めてもらう法律ができました。2026年から2029年までの4年間、いつもの分に加えて、JRAが積み立ててきたお金から毎年250億円、合わせて1,000億円を国に納めます。
この1,000億円は、国が2029年度まで集中して進める「農業の構造転換」に使われます。田んぼや畑の区画を広げること、農家が共同で使う施設を建て直してまとめること、ドローンやロボットのような新しい技術を広めること、海外に売る産地を育てることなどです。
共同で使う施設の中には、肉の通り道になる施設も入っています。牛や豚を肉にする食肉処理場、鶏を処理する食鳥処理場、子牛や牛を競りにかける家畜市場。それに、処理で出た骨や脂を油や飼料の原料に変えるレンダリング施設です。
古くなった処理場と、減っていく家畜市場
全国の食肉処理場のうち、築30年を超えるものは77か所あり、およそ半分を占めます。15の県では、県内の処理場がすべて築30年以上。そのうち6県は、処理場が県内に1か所しかありません。国は、このまま建て替えが進まなければ、肉を届ける仕組みそのものに支障が出るおそれがあるとしています。
家畜市場も減っています。肉用の牛を取引する市場は、2002年には全国に159ありましたが、2022年には114になりました。年に3,500頭も取引しない小さな市場が53あり、山あいや離島では毎月は開けず、買い手が集まりにくいところもあります。
長崎県では2020年8月、離島にあった宇久小値賀(うくおぢか)の家畜市場を、平戸口中央家畜市場にまとめました。年に5回しか開かれなかった市場の子牛も毎月の競りに出せるようになり、買い手も増えました。
数字の読み方
JRAの「年」は1月から12月までです。国に納める10%は、馬券の売り上げから、出走取消などで払い戻した分を引いた額にかかります。上乗せの250億円は、その年の4月から翌年3月までに納めます。JRAが直接出しているお金は、選ばれた事業ごとの上限を足した額で、実際に出る額とは違うことがあります。